女性マーケティングを考える際に「40代のキャリア女性がターゲットです」とか「F2層を狙っていきたいんです」とか「団塊世代向けに発信する予定です」などという言葉を聞くことがあります。
もちろん「すべての人」を狙ってやみくもに商品の企画開発や販売促進を行うよりも、明確に「誰をターゲットにするのか?」を定めることは、本来とても重要なことです。
けれど、昨今、生き方が多様化した結果、「年齢」を鍵として顧客像をイメージすることは、とても難しくなってきています。
かつての分類区分は、もはや時代にそぐわない
たとえば、「F1層、F2層」などという区分は、これまで主に放送業界や広告業界で用いられてきた分類手法で、2005年ごろから広く使われるようになったと言われています。
・C層 (Child、Kids) 4歳~12歳男女
・T層 (Teen-age) 13歳~19歳男女
・M1層 (Male-1) 20歳~34歳の男性
・M2層 (Male-2) 35歳~49歳の男性
・M3層 (Male-3) 50歳以上の男性
・F1層 (Female-1) 20歳~34歳の女性
・F2層 (Female-2) 35歳~49歳の女性
・F3層 (Female-3) 50歳以上の女性
おそらく、ざっと見るだけでも、この概念が作られた当時は「50代からシニア層」という捉え方に、まったく違和感がない時代だったのだろうと気づくのではないでしょうか。
近頃は「70代から高齢者」と考えるようになっていますから、今の50代は「まだまだこれから」の世代です。実際、もう一度チャレンジする人も多く、どちらかというと、これまでのF2層、昔の感覚でいう30〜40代に近いと捉える方が実態にあっているとも考えられ、「人生120年」と言われる時代に、50代以降を一括して考えること自体が、時代にそぐわないとも言えます。
また、もともとこの区分は、「トレンドに敏感で消費意欲が強い」と言われる「F1層(20歳~34歳の女性)」を狙っていこうという文脈で使われることが多く、かつてはテレビコマーシャルやドラマ、商品・サービスの大半は「20歳~34歳の女性」を狙って作られてきたという経緯があります。
けれど、当時「トレンドに敏感で消費意欲が強い」と言われていた「F1層」は、その意欲を保ったままで歳を重ね続けているのです。当然、当の本人たちも「もう50になったから」などと「おばあさんらしい」ファッションを選ぶことなどありえません(これは、今どきの60代でも70代でも同じことです)。
同様に、以前は「F2層(35歳~49歳の女性 )」は、ざっくり「小学生~中学生くらいの子どもを持つ主婦」というイメージでほぼ間違いはなく「家庭消費におけるキーパーソン」と考えられていました。
けれど、そもそも「結婚するのか」をはじめ、結婚しても「子供を持つのか」、子供をもつとしても「いつ生むのか」を選択できるようになった今、同じ世代の女性であっても、子どもの年齢はバラバラ。さらに、働き方もパートや派遣、正社員な多岐にわたっています。
もちろん、たとえば「更年期」といった体の変化については、年齢に依存する部分が残っているとはいえ、では、実際にどれくらい日常生活に影響するかも、どのように対応するかもそれぞれ大きく違っています。それに、結局のところ「見かけ年齢」も「健康年齢」も、それぞれの価値観や、それにともなう行動の積み重ねによって状態が変わるものですから、「いつからいつまで」という幅においても相当違いがあるはずです。
その上、たとえ似たような家族構成や住居環境にあり、生活スタイルが似ている人がいたとしても、必ずしも同じ考え方をするわけではなく、むしろ、実年齢はバラバラであっても、同じく「気持ち30代」の人には、同じ宣伝で同じ商品が売れる可能性の方が高くなっているのです。
つまり、もはや「35歳~49歳の女性」といった典型像が存在しないだけでなく、似たような環境にあるセグメントを仮定したところで、その内での「考え方」が多様化しているため、今や「年代」や「配偶者がいるか」「子供がいるか」といった区分を「消費行動の違いや特徴を俯瞰して理解する」ために使うことすら難しいと言わざるを得ません。
そして、このような従来の手法によるセグメントやターゲット理解の延長上には、さらなる細分化の道しか残されておらず、たとえば「既婚で小学生低学年の男の子を持つ、都内でフルタイム正社員で働く女性」などと分けていったとしたら、そもそもセグメント設定をしている意味がなく、自己矛盾に陥ります。
また、年齢によって考え方の傾向を補足できない以上、生まれ年を起点に世代ごとにくくることは、さらに難しくなります。たとえば、「戦中世代(1930~1938年生まれ)」や「ゆとり世代(1989~1993年)」という分類は、社会政策などを考える上では必要になることがあるかもしれません。けれど、今や正社員・非正規労働者・フリーター・ニートなどさまざまな収入層に分かれ、同世代の中での経済格差が広がっている以上、その内実は相当にバラバラです。
ですから、昔のように「40代サラリーマンであれば会社でもそこそこの地位にあり、収入も安定しているはず」などとステレオタイプな顧客像を描いて、ありきたりな販促をしても思ったような効果は得られません。それどころか、世代ごとの傾向を探ろうという試み自体が、実際の消費行動から目を背ける結果になる可能性すらあるのです。
「世代マーケティング」が通用しなくなった理由
では、なぜ、少し前までは「年代」によるセグメンテーションやターゲティングができたのでしょうか。
一般的には、情報社会の到来によって、どこに住んでいたとしても個人が、さまざまな情報にアクセスできるようになったこと、そして、自分が住む場所を自由に変えることができるようになったことによる「価値観の多様化」が原因だと考えられていますが、本質はちょっぴり違っています。
より影響力が大きいのは、核家族化が進んだ結果、これまで強固に存在した「家」や「ご近所」といった共同体が崩壊し、「世間体」や「一般常識」の影響力が低下したことにあります。つまり、数十年前までは、それぞれの個人が、それぞれの世代に敷いていた「常識」に合わせて生活しようと心がけていたからこそ、その世代の考え方が「常識」で揃っており、その世代特有の傾向が存在し得たのですが、今や、ご近所同士や親族で助け合わなくても、葬式はプロに頼めば困らないし、コンビニや洗濯機の普及で、結婚しないと生活できない時代でもありません。つまり、世間に何を言われようと「自分は自分として生きていく」ことができる範囲が、どんどん拡大しているのです。
それぞれが「常識に合わせるつもりなどない」と考えられるようになっただけでなく、社会の柔軟性や受け止め力が向上し、もはや「女だから」「妻だから」「母だから」「年相応に」など世間から期待される「役割」意識に合わせて生きるしかない時代は、終わりを迎えつつあります。
「20代前半の女性はこういう価値観」とか「専業主婦に特有の考え方はこう」などと言えたのは、たとえば「20代前半で結婚退職し、子供を生んで、郊外にマイホームをもち…」というステレオタイプな人生をなぞることに、誰もが何の疑いをもたず、それぞれが常識の範囲内におさまる生活をし、「この年齢ならば、こう考えるべき」という「常識」に合わせて生きてきたために、世代や役割ごとに行動が似通っていたためです。
つまり、もともと年齢、職業などといった外観的・表面的な要素を、安易にマーケティングに持ち込むことができたのは、たまたま「常識」に合わせて生きるべきだという圧力が存在し、多くの人が無意識的に「世間」に合わせた生き方を選んでいたという背景があったから成立したにすぎないのです。
(※要は、それぞれのターゲット層がイメージする「本来の自分」の大部分が物理的にも共通する時代が長く続いたということなのですが、そこまで話を広げると複雑になりすぎるため、興味がある方は、拙著『プリンセス・マーケティング』のRule05の部分をお読みいただければ幸いです)
年齢や世代に「逃げない」マーケティングを
「20代前半の女性は、こういう傾向をもっている」という指標に頼って、商品や販促を企画しようという発想は、ある意味、本気で顧客に向き合うことを避け、楽をするための「逃げ」にすぎません。「世間でこう言われているから」と言えば、失敗しても「自分のせいではない」と思うことは可能でしょう。
けれど、本気で考えるべきは「うちの商品やサービスのお客様」という限られた特定のグループの人たちの考え方や行動パターンを詳しく理解することであるべきです。世間一般で言われる最近の傾向をいくら分析したところで、一か八かの賭けに出るしかありません。けれど、より詳細で正確な情報は、実は、自社の顧客のリアルな行動を読み解くことから得られるのです。
世の中には、机上の空論が溢れていますが、実際に「現場」で本気でマーケティングに携わってきた人がたどり着く結論は、いつも同じです。目の前のお客様をどれだけ深く理解していて、お客様よりもお客様の望んでいることを詳しく話すことができるかが、すべての鍵を握っています。
売れる商品企画や販売戦略は、現場感のない表面的なアンケート結果から生まれるものでも、集計されたデータから見えてくるものでもありません。実際に買うという行動を起こすのは、一人ひとりの生身の人間なのです。
そして、そのリアルなお客様の行動を紐解く上で重要になるのが、意外にも、これまで見落とされてきた「性別」による本質的な違いです。多くの女性は、多くの男性とは大きく異る意志決定プロセスをたどり、まったく違うものを求めているため、その傾向の違いをしっかりと押さえておくことが、真の顧客理解のヒントになります。
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